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東南アジア言語学科ベトナム語専攻講師 鈴木 康央
1991 年大阪外国語大学タイ・ベトナム語学科卒業。
1991 年〜 92 年ハノイ総合大学留学。
1994 年大阪外国語大学修士課程修了。 日本語教師を経て現職。
著書/『ベトナム事典』(共著・同朋舎 1999 年)の伝統音楽、演劇の項目。
『現代ベトナムを知るための60章』(共著・明石書店 2004 年)の音楽の項。伝統楽器『ダンバウ』の数少ない日本人演奏者の一人。
CD/『ダンバウ』( CAM 1993年) |
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ベトナム語はオーストロアジア語族(モン・クメール語族)に属するものと考えられ、公用語の地位にある近縁の言語はカンボジアのクメール語である。しかし、隣接するタイ語や中国語との接触による種々の影響を見ることもできる。その代表的な現象が声調という音の高低・上下で意味を弁別するシステムである。
これは日本語のアクセントに似た現象だが、最大の相違点は、日本語のアクセントが音節と音節の相対的な高低差により意味を弁別するものであるのに対し、ベトナム語の声調は1音節の内部に音型を内包し、音節間の相対的高低のみならず、1音節毎の音の上下や声門の緊張により厳密に意味が弁別されるものである。
一般に全国共通語と認識され、また外国語教育の中で主に採用されているハノイ方言を中心とする北部方言では6つの声調を弁別する。正書法上は声調に関する記号は5つあり、基準となる高平声で無記号のaとである。なお、中部及び南部方言ではおおむね5つの声調を弁別するが、これはが習合したことによるものである。
また、その音節の構造は、大きくは頭子音(+介母音)+母音(単母音または3種類の複合母音のいずれか)(+末子音)に声調が加わるという複雑なもので、日本語では基本的にはすべて子音+母音で構成される開音節であるのに対し、ベトナム語の音節は閉音節を大量に含有する。ベトナム人の姓として最も多いグエン(頭子音+介母音+複合母音+末子音+声調)は、最も構成要素の多い音節の例としてあげることができる。 |
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これらの母音を、開口値や口舌の位置などを勘案して概念図を構築すると以下のような三角形で描かれる。 |
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右から左へ、円唇から非円唇音に変化、また口舌が後ろから前へ変化する。上から下へ、開口度が上がる。 |
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正書法上の制約で頭子音や末子音が付属する場合、
と綴られていることになっている。なお、は頭子音が書かれない場合の綴りである。 |
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実際には[ ]内の綴りは母音や介母音との関連による綴り字上の区別があるのみで同音であり、また北部方言ではと同音で発音される(中部や南部の方言には別の組み合わせの発音習合が存在する)。
なおについては、前者はzの音を、後者がdの音を表す。p-はほとんどが外来語に用いられる。 |
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特に-p, -t, -c, -chは内破音と呼ばれ、その文字が表す音を作るまでで、実際には破裂させないため、日本語を母語とする者の耳には、たとえば「アップ」の「アッ」まで発音しただけのように聞こえるし、またそのように発音するのが正しい。 |
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ベトナム語の単語はあらゆる語形変化(活用)をせず、孤立語に分類される。そのため単語の語順が文の意味を支配しているとも言うことができる。その語順は大きく2つの法則に支配されている。 |
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(1)の動詞文(主語−動詞−目的語)の場合 |
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(1)の形容詞文(主語−形容詞)の場合 |
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という語順が標準的である。 |
(2)の場合 |
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となる。 |
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その他、ベトナム語文法用語では虚詞と分類されてきた様々な文法機能を表すだけの単語及びその組み合わせを用いることにより、複雑な構文を構築する。これは孤立語に特徴的な文法要素であるため、膠着語である日本語を母語とする者にとっては習得により注意が必要な部分であることを強調しておかなければならない。
ベトナム語の語彙は、概ね純ベトナム語(モン・クメール系語彙)、漢語、外来語の3つに分類することが可能であるが、とりわけ漢語の習得は初学の段階から重要である。中国文化圏との接触が長期に渡ったため、文化語彙の多くが漢語、または漢語由来の要素で構成された複合語であることが多いからである。同じく漢語を共有する日本語を母語とする者にとっては、比較的容易な部分であるので、積極的に漢字とともに記憶したいところである(ただし現代ベトナム語では漢字はいっさい用いられない。
現代ベトナム語の正書法は、ローマ字をベースに作られ、
チュークオックグーと呼ばれる。なお外来語とは、仏領インドシナ時代を中心に流入したフランス語や、近年の近代化・工業化の中で取り入れられた英語などの単語を指すが少数である。 |
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